監査が近づくと、「どんな会計帳簿を用意すればよいのか」「資料に漏れがあったらどうしよう」と不安を抱く経営者や経理担当者は少なくありません。私自身、税理士として数多くの企業をサポートする中で、監査直前に慌てて資料を集め、監査人から厳しい指摘を受けてしまった企業を見てきました。
この記事では、監査で必要となる会計帳簿や資料の具体例、そして監査人が重点的に確認するポイントを詳しく解説します。さらに、日常の経理処理を工夫することで監査準備をスムーズに進めるコツも紹介します。
この記事を読むことで、監査に向けて「何を準備すれば良いか」が明確になり、余計な不安を減らすことができます。特に監査対応に慣れていない中小企業の経営者や、経理経験が浅い担当者にぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
監査で必要な会計帳簿とは?
監査で必ず必要になるのは、会社の取引を正しく記録した会計帳簿です。会計帳簿は大きく「主要簿」と「補助簿」に分けられます。
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主要簿:仕訳帳・総勘定元帳
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補助簿:現金出納帳、売掛金台帳、買掛金台帳、固定資産台帳など
これらの帳簿は会社法・法人税法で保存義務が定められており、監査人が最初に確認する基本資料です。帳簿に不備があれば、決算の修正や監査意見に影響が出る場合があります。
例えば、ある製造業の企業では、固定資産台帳の更新を怠っていたため、設備の除却が反映されていませんでした。監査人から指摘を受け、決算修正により利益が数百万円減少する事態となりました。このように帳簿整備の遅れは、経営判断にも直結するリスクがあります。
監査で準備すべき資料の具体例
帳簿に加えて、裏付けとなる証憑資料の準備も欠かせません。代表的なものを整理すると以下の通りです。
仕訳帳・総勘定元帳
全ての取引を網羅した資料。日付や金額、仕訳科目の正確性がチェックされます。
現金出納帳・預金通帳
帳簿残高と実際の残高が一致しているかを突合。銀行残高証明書の提出も一般的です。
売掛金・買掛金台帳
取引先ごとの残高が正しいかを確認。監査人は「残高確認状」を取引先に送付し、回答率が80%未満の場合は追加調査を行うケースもあります。
請求書・領収書
取引の証拠資料。印刷物だけでなく電子データも対象となり、日付や金額が帳簿と一致しているか確認されます。
契約書
売買契約、リース契約、借入契約など。長期取引や資産計上の根拠として重視されます。
固定資産台帳・減価償却計算書
取得価額、耐用年数、償却方法が会計基準や税法に沿っているかを確認されます。
税務申告書・届出書類
法人税申告書、消費税申告書が決算書と一致しているかを確認。届出内容と実際の処理が異なる場合、指摘を受けやすい項目です。
監査でチェックされるポイント
監査人は「帳簿が揃っているか」だけでなく「会計処理が適切か」を重点的に確認します。
1. 売上の計上基準
架空売上や計上時期の誤りは、最も厳しく見られる項目です。例えば、商品を発送していないのに売上を計上しているケースは粉飾決算と判断されかねません。
2. 在庫管理の正確性
棚卸資産は貸借対照表に大きな影響を与えます。実地棚卸の結果と帳簿残高の差異が1%以上あると、監査人から改善を求められることが多いです。
3. 費用計上の妥当性
交際費と福利厚生費の区分、修繕費と資本的支出の区分などは典型的な指摘ポイントです。分類を誤ると税務リスクにも直結します。
4. 関連当事者取引
役員や親会社との取引は、第三者との取引と同条件かどうかを確認。金利ゼロの貸付金などは、注意深く精査されます。
5. 内部統制の整備状況
経理担当者が1人の場合、不正や誤謬のリスクが高いと判断されます。承認フローや職務分掌の有無が重要視されます。
監査準備をスムーズに進めるコツ
監査直前に焦らないためには、日常の経理業務から監査対応を意識することが大切です。
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✅毎月の月次決算を確実に実施する
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✅領収書・請求書を取引ごとに分類・保管する
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✅半期ごとに取引先残高確認を実施する
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✅契約書は電子・紙の両方で整理する
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✅承認フローを明文化し、社内で共有する
実際に、月次処理を徹底していたある企業では、監査準備にかかる時間が前年の約70時間から30時間に短縮されました。日常の工夫が監査効率を大きく左右します。
まとめ
監査に必要な会計帳簿は、仕訳帳・総勘定元帳といった主要簿に加え、現金出納帳・売掛金台帳・固定資産台帳などの補助簿が基本です。さらに、請求書や契約書、税務申告書などの裏付け資料を揃えることが求められます。
監査人が特に注目するのは、売上の計上基準、在庫管理、費用の区分、関連当事者取引、内部統制の整備状況です。これらを日常から意識することで、監査準備の負担を減らし、経営改善にもつなげることができます。
当事務所では、監査準備に向けた帳簿整理や内部統制の仕組み作りを支援しています。監査対応に不安がある経営者や経理担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。監査を単なる「チェック」ではなく、会社の成長につなげる機会にしていきましょう。